ヴィジュアル系音源レビューという名目の戯れ言。

ヴィジュアル系、又はそれらと親和性の高い音楽CDの出来損ないレビューです。失礼なことも敢えて平気で書きますが完全に小僧の戯れ言なので気にしないで頂けたら幸いです。

GAUZE/DIR EN GREY

1999年7月28日に発売されたDir en greyによるメジャー1stアルバム。
21.6万枚というセールスを記録し、ディル史上最も売れたアルバムです。
ちなみに13曲全てにMVが製作されています。

f:id:datenshi666:20200824190538j:plain

評価
★★★★…特別大好きな曲で特にオススメしたい曲。
★★★…好きな曲でオススメしたい。
★★…個人的に普通。悪くないよね!くらい。
★…正直自分はあまり良さを見出だせない苦手な曲。

01 GAUZE-mode of adam-
…★★☆☆
不気味な金属音から始まるインストゥルメンタル
しばらくすると、遊園地やサーカスで流れていそうなアコーディオンによるワルツ調のメロディが流れ、vo京さんが呟き出します。
そこからバンドサウンドが重なり、ビートを早めていくといった構造のSEです。
4つ打ちのリズムにへばり尽くノイズのようなギター、効果的に狂気を演出する京によるシャウトがシニカルな空気を醸し出していますね。

序盤のチープな効果音もこの世界観にはピッタリで、盛り上がりを見せる中盤以降とも、良い対比になっているのではないかと思います。
元々はそこまで好きでも無かったのですが、2014年に行われたGAUZEツアーでのライヴで聴いて以来、結構好きになっちゃいました。
アルバムの導入としての役割はもちろん、ライヴの入場SEとしても中々優秀です。


02 Schweinの椅子
…★★★☆
Die作曲。
極太男声コーラスが映える、ハードな極悪ヘヴィロック。
スピード感のあるギターリフはスラッシュメタルを思わせるスピード感がありますね。
イントロの「Geist Seele Wille Zelle…」とドイツ語によるカウントを叫ぶコーラスには、当時の関係者などが大勢参加したそうです。

男臭いコーラスに負けじと、京さんもGeist Seele Wille Zelle!とキレ味抜群のシャウトを繰り返します。
薬、淫乱、精神崩壊と、アングラな世界を繰り広げる歌詞の世界観の通り、狂気を感じさせるメロディ展開です。
サビでは、クリーンボイスから移り変わるようにダミ声を使用したり、要所要所に早口による台詞なども効果的に取り入れて、毒々しいイカれた雰囲気を上手く演出してますね。

この楽曲も、生で聴いたmode of GAUZE?の記憶が強く残ります。
めちゃくちゃかっこよかったです。


03 ゆらめき
…★★★☆
前の楽曲の終わりから間髪入れずにスタート。
Shinya作曲による、メロディアスな王道歌謡ヴィジュアルロックチューンです。
X JAPANYOSHIKIさんプロデュースの元、3枚同時リリースとなったメジャーデビューシングルの1つ。
全体的にミディアムテンポかと思いきや、サビでは疾走感のあるビートに。
小説のようドラマチックに未練を綴った歌詞と、哀愁漂う切ないメロディとの相性が抜群ですね。
落ちサビでの、YOSHIKIさんによるピアノの演奏もかなり良い味出してます。
ピアノの音色を聴いただけで、ファンなら記載が無くても彼による演奏だと分かるような気がします。笑

数あるDIR EN GREYの楽曲の中でも、一番ストレートな王道90年代ヴィジュアルソングではないでしょうか。
彼らの中で最も売れたシングルなだけはあります。

今でもShinyaさんのお気に入りの一曲でもあるそうです。
でもこれ、改めて聴くと素直に名曲ですよね。


04 raison detre
…★★★☆
Toshiya、Shinyaによる共作。
ダンサブルなノリのいいサウンドで、後により難解な音楽性となってゆくディルの中では珍しいタイプの楽曲ですね。
縦ノリなベースラインが耳に残ります。
MVでは裸の女性が自らの目をくり貫くシーンがあったりと過激な映像が含まれていますが、楽曲自体はシャウトもなくメロディアスでキャッチーです。
Dieさんお得意のカッティング奏法や、薫さんによる王道なギターソロもあり。
ディルだから埋もれてるけど、他のバンドならもう少し人気曲にもなれたんじゃないかなと思ったりもしますね。


05 304号室、白死の桜
…★★★☆
Die作曲。
ダーク且つメロディアスなミディアムナンバー。
京さんによる早口気味な台詞でスタート。
病により死を迎える者の心情を綴った歌詞は中々にインパクトがあります。
それを美しく儚げなメロディラインに乗せ表現する。
この情緒溢れる表現は日本人のバンドだからこそではないでしょうか。
強いてはヴィジュアル系と呼ばれるバンドの数多くが強みとしている要素かなと思いますね。
アコースティックギターによるカッティングや、変則的なフレーズを決め込むドラム等、演奏にも注目です。

MVでは各メンバーの演技も見られます。
薫さんとtoshiyaさん怪演(?)は必見です。笑


06 Cage
…★★★☆
薫作曲。YOSHIKIさんプロデュースによる4枚目のシングル。
儚げなオルゴールから一転、勢いのあるバンドサウンドへ。
緩急のある展開がスリリングでいちいちドラマティック。
悲哀を感じるメロディアスな楽曲で、当時この曲でミュージックステーションにも出演しました。

他のシングル曲に比べ、YOSHIKIさんが作曲の段階から深く関わっているらしく、一番彼によるアイデア等が盛り込まれた楽曲なのではないでしょうか。
でもこのサウンドクオリティを聴けば、それも納得。
無駄な隙間の無いサウンドと、完璧なプロダクションは彼の経験やノウハウが活かされているからこそなのかもしれません。
ラスト落ちサビでのピアノのフレーズは、過激な歌詞の裏側に隠された哀しみや優しさを表現しているようで、深みを与えているセクションだなと思いますね。

間違いなく初期の名曲の1つだと思います。


07 蜜と唾
…★★★☆
薫作曲。読み方は「ツミトバツ」。
「加害者の僕から、被害者の君へ」という京さんの台詞からスタートするハードコアナンバー。
ヘヴィなギターリフと、シャウトを織り混ぜた激しく掻き立てるような曲調から、キャッチーでメロディアスなサビという彼らの王道展開へ。

一般的に考えればこれだけ激しい楽曲でも、DIR EN GREYを好んで聴くリスナーからしたら比較的聴きやすい楽曲なのではないかとは思います。
但し、歌詞の内容のストレートな過激さと言ったら彼らの楽曲の中でもピカイチです。
簡単に要約すると、クリスマスイヴに14歳の少女を犯し、その後に身体を薔薇薔薇にしてしまうといった内容。
サスペンスドラマの犯人もドン引きしてしまう程の残酷さですよ。笑
一部歌詞が伏せ字にされていたり、直接的な表現は抑えられているとはいえ、この内容をメジャーでリリースする凄さたるや。

とはいえ実際はインディーズ時代から既に存在していた曲で、予定では当時シングルとして切る予定だったとか。

どのみち最も恐ろしいクリスマスソングでしょう。笑
ちなみに2011年にリメイクされてますが、そちらは更にドロドロ感が増してます。笑


08 mazohyst of decadence
…★★★☆
薫作曲。9分24秒に及ぶ、気怠いテンポの長編ナンバー。
「聞いてる内に眠たくなって次に飛ばしたくなるような感じにしたかった」と語るように、敢えて大きな盛り上がりやキャッチーなメロディを排除した内容となっています。
イントロの怪しげな音色と赤子の泣き声が既に物語るように、「中絶」をテーマにした重々しい世界観の楽曲。
それを「強姦」をテーマに取り入れた楽曲の次に配置しているのが憎らしい。笑

MVでも過激なまでにその現場を描写しており、映像に一部規制がかかりました。
なにより楽曲中盤の、中絶を決意する女性と医師との会話をイメージした台詞がインパクト絶大。
台詞の言い回し等は、実際にこんな医者いないでしょと、ツッコミたくなる仕上がりなのですが、演奏や台詞後の女性コーラスなどの演出のお陰で不思議と緊張感は半端ない。
下ろされる子ども目線の痛々しい歌詞を、シャウト混じりの悲痛なボーカルで表現するラストの大サビにも凄みを感じます。

2011年以降、度々ライヴでも演奏されているのですが、そのアレンジがとても格好いいんですよね。
より演奏がヘヴィになり、ドゥーミーな香りが漂うものとなっていました。
そのアレンジで再構築した音源が心から欲しかった…。
今でも心の何処かで待ち続けています…。


09 予感
…★★★☆
YOSHIKIさんプロデュースによるDie作曲のシングル曲。
DIR史上最も爽やかでキャッチーなメロディアスチューンとなっており、前曲の重々しい空気から一転して、清涼剤のような役割を果たしてくれています。
煌めくような綺麗なアルペジオが印象的で、MVの色調通り、白さを感じる楽曲です。
今作の中でも「ゆらめき」に次いで、ヴィジュアル系の王道ソングとなっている気がします。

ラスト大サビ裏での台詞を発案したのは作曲者であるDieさんなんだとか。
印象的なパートなので、後のヴィジュアル系バンドが影響を受けた楽曲をリリースする事もちらほらありましたね。笑

ドラマ「女医」のタイアップが付いていて、MステやカウンドダウンTV等にも出演していた事から、未だに彼らの中で最も有名な曲の1つなのではないでしょうか。
"ディルはハードで苦手"といった人でも「予感」は好きだという人も多く見かけます。
初期の彼らの代表曲の1つとして扱っても良いのかな。


10 MASK
…★★★☆
薫作曲。ヒトラーの演説の一部を切り取った冒頭からバンドサウンドへ。
軽快で小気味の良いリズムが特徴で、歌詞は"独裁"洗脳"ナチス"戦争"を連想させる意味深な内容となっています。

イヤホンで聴いたときに右と左で交互に声が聴こえるようなパンを利用したギミックが施されていたり、要所要所に呟くような台詞が挿入されていたりと、聴いていて発見が多い楽曲でもあります。
凝った作りの気持ち悪い(誉めてます)Aメロ→シャウトを含んだ激しいBメロ→伸びやかに広がるメロディアスなサビ といった構成。
そしてラストは演奏が終わったかと思いきや…。
全体を通して沢山のギミックが施された楽曲です。
なんだかんだ好きなのだけど、大粒だらけの作中ではインパクトは弱めかもしれません。


11 残-ZAN-
…★★★☆
YOSHIKIプロデュースによるメジャーデビューシングルの内の1曲で、作曲者は薫さん。
この曲でMステに出演した際、多くのクレームを生んだという狂気に満ちたハードコアナンバーです。
リリース当時のライヴでは、オーディエンスを煽るようにサビを何度も繰り返し10分以上も演奏を続けることが多かったとか。
恐らく歌詞は愛する女性を殺めてしまう内容でしょうね。
それを表現するシャウトのキレ味がとにかく凄い。
更にただ激しさや狂気で押し切るだけではなく、サビ後の怪しげなアルペジオや京さんの表現力から、日本のホラー要素を感じられる世界観を演出。
ただ激しさだけに特化したバンドなら、DIR EN GREYはここまで世界的に高い評価と不動の地位を築くことはなかったでしょうね。
どんな楽曲も、濃厚で唯一無二の世界観を表現する各メンバーのセンスがあるからこそ。

MVではホラー色を強く押し出した過激な映像となっており、これをメジャーデビューシングルにしてしまう彼らは、当時から尖っていて異端だったことが伺えますね。笑

ラストは「君がいない…」という呟きを繰り返し、ピーという心音を連想させる音で終了。
主人公の虚無感を感じさせる静かな終わり方です。

ちなみにリリースから10年後の2009年、「残-ZAN」は「残」としてリメイクされますが、驚く程に進化していて本当に格好いいですよ。


12 アクロの丘
…★★★★
YOSHIKIさんプロデュースによるメジャーデビューシングルの内の一曲。
アクロとは実在するアクロポリスという名の丘から。
薫作曲による9分を越える長尺のバラードです。
歌詞は、愛する女性と死別してしまった男性目線。
丘に吹きすさむ風の音のようなSEが流れる中、静かに聴こえてくる寂しげなアコースティックギターによる調べに、バンドサウンドが重なるイントロが素晴らしい。
生のストリングスを取り入れたアレンジもYOSHIKIさんによって施され、広大な土地に独り佇むような淋しさと、スケール感を兼ね備えた物悲しい楽曲になっています。

この曲、各セクションのメロディがどれも秀逸で。
更に中盤の泣きのギターソロは必聴です。
個人的に、僕が知る限りの全ての楽曲の中でもTOP10に入るくらい好きなギターソロですね。
その後のテクニカルなベースソロも格好いい。
バラードながらも、各メンバーの演奏も聞き所満載な曲だと思います。

そして何より記述しておきたいのが大サビ後、ラストの展開が切なくて堪らないんです。
最後にサビをそのまま繰り返して終わりではなく、更に新しいメロディが待っているというDIR EN GREYお得意の展開。
こういったドラマティックな楽曲構成が多いのも、ヴィジュアル系の強みであり魅力だと思っています。

不覚にも大好きな楽曲なのにも関わらず、いつも以上に上手く言葉として表現できません(;_;)
言葉にすると安くなりますが、本当に名曲なんです。
この曲の中で鳴る全ての音が、この楽曲の世界観をきちんと表現してると言いますか。
特別珍しいサウンドを奏でている訳でも、斬新な楽曲構成やコードを使用している訳でもない。
それなのに独特の空気感が流れているというか。
大袈裟ではなく、この曲に近い空気感を放つ楽曲を僕は一曲たりとも聴いたことがないです。

改めて、長さを微塵も感じさせない名バラードだと思います。


13 GAUZE-mode of eve-
…★☆☆☆
京さんによる呟きに、不気味に金属音が鳴り響くインストゥルメンタル
厳密に言うと、「アクロの丘」の演奏終了後から始まっています。
そのまま次のトラックに流れるのですが、このトラックは事実上5秒未満という僅かな時間で終わってしまいます。笑

「アクロの丘」で穏やかにアルバムを締めるのは綺麗過ぎると判断しての収録なのかと思われますが、正直あまり好きではないです。笑
まぁ、1曲目と似てるサウンドなので、再びアルバムを1からリピート再生するには良い仕掛けなのかもしれません。


総評
メジャー1stアルバムという事で、一枚で様々なDir en greyの顔を知ることの出来るバラエティ豊かな作風となっております。
X JAPANYOSHIKIさんによるプロデュースで話題となり、より世間に存在を知らしめるきっかけとなったヒットシングル5曲もしっかりと収録。
初期の彼らを知るにあたって最も抑えるべき作品となっているのではないでしょうか。
各楽曲の個性やクオリティは勿論、1枚のアルバムとしての起承転結も申し分なし。
LUNA SEA黒夢などに影響を受けた結成初期の彼らですが、このアルバムはそれ以降の新たなヴィジュアル系の基礎のようなポジションになれる程のインパクトとオリジナリティを確立したのではないでしょうか。
何より王道と邪道のバランスが絶妙。
如何にもな程にダークでコテコテのヴィジュアル系なのですが、その中に光るメロディセンスと、激しさの中に潜むキャッチーさは類を見ない程。

残虐性の高いテーマと王道のヴィジュアル系ど真中を高いレベルで融合させた作品かなと思います。

DIR EN GREYの長いキャリアの中で語るとしたなら、僕はこの作品を彼らの最高傑作としては選びません。
ですが間違いなく、90年代のヴィジュアルシーンの名盤の内の1つである事を記述しておきます。

総合点数は91点。
…★★★ 抑えておきたい90年代の名盤。